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えからぬけでたうま

むかし、あるところにお寺があり、絵のとても上手な小僧さんがいました。
小僧さんはお経を少しも覚えようとはしないで、絵ばかり画いていました。
和尚さんは渋い顔をして小僧さんに言いました。
「これ小僧や、お前は、いずれはわしの代りにお寺でお経を唱えにゃならんのだぞ。少しはお経を覚えなさい。お経を覚えるまで、絵を画いてはならん」
「へ、へえ・・」
と小僧さんは返事はするものの、さっぱりお経を練習しないで、あいかわらず、こっそり絵を画いていました。
ある日、小僧さんは子馬の絵をかきました。これがなかなかの仕上りで、和尚さんに見つからないように、その絵を押入れの中に隠しておきました。ちょうど五月の麦のとり入れの頃で、村では、見渡す限りの麦畑に、風で黄色い穂波が豊(ゆたか)にゆれていました。
ところが、この麦が毎日荒らされるようになってしまったのです。荒らされ具合を調べてみたら、どうも何かのケモノが食い荒らしているようです。
村の者達は、夜、見張りを置くことにしました。そしたらある晩のこと、一頭の子馬があらわれて、麦畑に入って、盛んに麦を食い散らかしているではありませんか。
「ありゃ、子馬が麦を食べてしまったわ。あれは、どこの馬だ」
といいながら、見張りの者が子馬のあとをつけて行くと、子馬はお寺の中へ入って行きました。
見張りのものはお寺の中の和尚さんを起こして尋ねてみると、そしたら和尚さんは、
「うちの寺では、馬など飼ってませんよ。」
といいますが、子馬の足跡がお寺にあるので、
「ちょいと調べてみましょう」
ということで、二人で馬の足跡をたどってみました。
すると足跡は、寺の門から小僧さんの部屋へ続き、小僧さんの部屋へ入ってみると、ちょうど押入れの前で足跡は消えていました。
「これは、不思議なことだ」
と首を傾げながら、押入れを開(あ)けてみると、押入れの中には、まるで生きているように画かれた子馬の絵がありました。
「この絵は小僧が画いたものにちがいない。それにしても見事な出来ばえの絵だ」
と、つくづく見ていると、絵の中の子馬の足に泥が付いているではありませんか。
「さては、この絵の馬が抜け出たか」
次の日の朝、和尚さんは、小僧さんに言うて、その絵にクイを画かせて子馬をつなぐようにさせました。
それからは、その子馬は、もう絵から抜け出てこなくなったそうです。

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